童話

『かめめの恩返し』

「あ~ぁ、なんかおもしろいことないかなぁ」
 5年生になったのに、たかしくんは友だちと楽しく遊ぶことができません。学校が終わると、毎日ひとりでつまらなそうに、とぼとぼと歩いて帰ります。
 この日もいつものように、たかしくんはとぼとぼと歩いていました。

「あれ、何だろう?」
 道の先に黒い石のようなかたまりが転がっています。たかしくんはふしぎに思って近くに寄ってみました。すると黒いかたまりはあわてたように動きはじめました。たかしくんは急いで近づいて、ビックリ! それは一匹のカメでした。太陽の熱でカラカラにかわいて、とっても苦しそうです。
「よし、ぼくが助けてあげる。なんて名前かな?」
 たかしくんが話しかけると、カメは引っ込めた首をにゅるりと出して、たかしくんの顔をのぞき見ました。それを見たたかしくんは、にっこりと笑って言いました。
「そうだ、かめめにしよう! かめめでいいかな?」
 たかしくんに話しかけられて、かめめは何だかうれしそうです。

 たかしくんはかめめを抱えて草むらのほうへと歩きだしました。
「たしかこの奥に湖があったはずだけど」
 たかしくんがそう言うと、かめめがにゅっと首を伸ばして湖のある方向を示してくれました。
 かめめは思いのほか重くて、たかしくんはあっちにふらふらこっちにふらふらして、なんとか歩いています。何度も転びそうになって、そのたびかめめをしっかりと抱えてなんとかかんとか踏んばっています。けれど、とうとう木の枝に引っかかってたかしくんは転んでしまいました。それでもたかしくんはかめめを抱えて守っています。かめめは心配そうにたかしくんを見ています。
 たかしくんはにっこりと笑って、「大丈夫だよ」と言いました。

 それからもうしばらく歩いて、やっとのことで湖が近づいてきました。ずいぶん歩いたので太陽はかなり傾いて、すでに日が暮れかかっています。
 たかしくんは茂みの奥をかき分けて、湖を見つけました。すると突然、たかしくんの目にメロン果実のように鮮やかな赤黄色が飛びこんできました。
「あ、すごい!」
 夕暮れの太陽が湖に輝いて、なんと美しいことでしょう。
 たかしくんの心の中のもやもやは、優しくあたたかな光の中にすうっと消えていくようでした。
「なんだかとてもすっきりしているよ。かめめのおかげだね。ありがとう、かめめ」
(いえいえ、こちらこそ。たかしくんのおかげで命びろいしたよ)
「また会いたいね」
(うん、また会おうね)
 かめめが湖の中から手をふると、たかしくんの目の前がぱっと明るくなりました。そうしていつの間にか、たかしくんはおうちの前に立っていました。でもたかしくんはちっともふしぎなこととは思いません。
 おうちの中からは、たかしくんの大好きなおいしいカレーの匂いがしています。
「ただいま~」
「おかえり!」
 たかしくんはうきうきとした足どりで、元気よくおうちに入っていきました。
おしまい

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