童話

雨のふる日はうきうきわくわく

 雨のふる日はうきうきわくわく、楽しい気分。
どうしてかって?
ボクがカエルだからとか、あるいは野に咲くレンゲソウだからとか。
なんだ、だからそうなんだ、みたいなことを言うキミには分からないかもね。

 それじゃボクはダレなのかって?
まあまあ、そうあわてないで。ボクの話を聞いてから、なるほどそうなんだって思ってくれればそれでいい。

 ボクはある日の午後、アジサイの葉っぱの下で雨やどりをしているミツバチを見つけたんだ。そのミツバチはひどく疲れているようで、ヨタヨタと今にも倒れそうだった。

 いつものボクなら気にもとめない。けれど、この日は仲間と言い合って少しいらいらしていた。それで、ついミツバチにちょっかいを出したんだ。

「おやおや、こんなところでお休みかい? どうしようもないね」
 するとミツバチは、横からの雨風に打たれながらこちらに顔を向けた。

「わたしのことはいいのです」
「ん? どういうことかな」
「わたしは少し休めばまた動けます。あなたのほうこそ、こんなところにいてよろしいのですか? もっと大切なお仕事があるでしょう」

 予想外の言葉を聞き、ボクはムッとした。
「なんだと。ミツバチのくせに、このボクにちゃんと仕事をしろと言うのか?」

 ミツバチは優しい顔で、けれど目を輝かせてこう言った。
「ええ。わたしの仕事はこのハチミツを女王さまに届けることです。野山や田畑はあなたのお仕事を今か今かと待っていますよ」

 そう言うとミツバチはにっこりと笑い、さっきまでの疲れた様子も消えて力強く飛び上がった。
 ボクはミツバチの言うとおりに野山や田畑へ行く気にはなれず、ミツバチの行くほうへとついていった。

 やがてミツバチは仲間のところへ戻り、出迎えた女王バチに集めたハチミツのほとんどすべてを渡した。
 自分の取り分はほんのわずか。

 それでもミツバチはうれしそうに、ほどなく仲間に囲まれながら静かに消えていった。
 ボクはミツバチの仲間のもとへ行ってみた。

「キミたちは、ただハチミツを集めるだけの一生なのか?」
「ええ、そうですよ」
「それだけで満足なのか?」

 ミツバチたちはお互いに顔を合わせ、不思議そうに首をひねった。
「もちろん、満足しています。わたしたちには良質のハチミツを集めて女王さまに届けるという素晴らしいお仕事が与えられているのです。どうして不満などありましょうか」
「もっといろいろ、やりたいことはないのか?」

 ミツバチたちは再び顔を合わせて笑いました。
「わたしたちはこの仕事が大好きです。この仕事に専念してみんなが幸せになることが、わたしたちのなによりの喜びです。あれこれやってるヒマなんてありませんよ」

 雨のふる日はうきうきわくわく、楽しい気分。
 ボクの仕事は野山や田畑をうるおわせること。

 だからってそれをキミに押しつけようなんて思わない。これはボクの大切な仕事なんだから。

 このごろ、ほんの少しずつだけど、ボクに感謝してくれる人もいてね。照れくさいけど、悪い気分じゃないよ。

 だからなんだ、みたいなことを言うキミには分からないかもね。
それじゃボクは仕事があるから、これで失礼するよ。

 なになに、もっと分かるように言えって? 
 まあまあ、そうあわてないで。キミもボクのように、まずは自分の仕事と向き合うことだね。おっと仕事がないなんて言わせない。キミが自分と向き合えばきっと見えてくるはずさ。その仕事を大切にすればなるほどそうなんだって思うときがきっとくる。大丈夫。それまで待っていればいい。大切なのは自分のやりたいことを自分がちゃんと知っていることさ。

 さて、ボクの仕事もそろそろおしまい。ボクはもうこれ以上時間を無駄にできない。だってもう、すぐそこまで次の風がやって来ているだろう? ボクはアイツと交替さ。なにボクのことは心配いらない。一度消えるけれど、一年もすれば再びこの世界に戻るから。きっとまた、ここにも来ると思う。
 さあ、最後にもうひと仕事するとしよう。
 では、失敬。

-童話